キスの温度
すい、と伸びてきた大きな手がそっと頬に触れた。
何事かと弾かれたように顔を上げ、真由子は目の前の金色を見上げる。
「とらちゃん……?」
『何だ?』
普段よりも妙に真剣な眼差しにとくん、と鼓動が跳ねる。
「どうし、た……の?」
怪訝そうな顔に影が落ちると――温かで柔らかな感触が唇を撫でた。
『……喰っても、いいか?』
低く掠れた声が小さく囁く。
「……食べてから言うのは、反則だよ」
驚きで見開かれた瞳が嬉しそうに細くなる。
『……もう一度、いいか?』
「そ、んなの…いちいち聞かなくて、も……」
近付く顔に目を閉じれば、ゆっくりと落ちてくる優しい口付け。
目を開ければ視界一面が金色に染まる。
虹彩のない不思議な色合いを湛えた目に、逆さまに映り込む自身の真っ赤な顔。
「えっと、その……」
真っ直ぐな視線に射抜かれた真由子は逃げ場を失い、
取り繕うように言葉を紡ぐ唇をとらが塞いでいく。
『もう少し……いいか?』
確かめるように、慈しむように。
幾度も幾度も唇が重なり、離れてはまたすぐに触れ合う。
触れるたびに伝わる温かさ。緩やかに解けていく心と身体。
息が弾んで、心臓がうるさいくらいドキドキする。
「とら、ちゃん……」
口付けが落ちる前に小さくその名を呼べば、悪戯な目が嬉しげに細められる。
『……嫌か?』
「え?」
『わしと……』
羽が触れるような軽さで、また唇が重なる。
『こういうコトをするのは……嫌か?』
返事に困って目を伏せると、伸ばされた腕にぎゅっと引き寄せられ、
懐深く抱き込まれてしまう。
『マユコ……?』
「……嫌じゃ、ないよ。ないけど、でも……」
こんな風に近くでとらの体温を感じるのも、
そっと唇を触れ合わせるのも、胸が痛くなるくらい嬉しくて幸せなのだけれど、
何もかもが初めてだから――どうしていいのか分からないのだ。
『でも……何だ?』
とらから与えられるものに、与えられるもの以上で応えたいと思うけれど、
いつもいつも、恥ずかしさが邪魔をする。
抱かれる腕の中で身じろいで、真由子は腕を伸ばすととらの首筋を抱き寄せる。
「嬉しいけど、恥ずかしいんだもん……。どうしていいのか、分からないの」
肩口に顔を伏せたまま、真由子は小さく呟いた。
『つまり……嫌ではないんだな?』
こくん、とひとつ頷いて、
真由子は豊かな金糸に埋もれた長い耳に唇を寄せると、消え入りそうな声で囁く。
「とらちゃんのキスは……甘くて優しいから、好き」
くくっ、と嬉しそうに喉を鳴らして、とらがからかうような声音で問う。
『好きなのは……口付けだけ、か?』
「もう! とらちゃんのイジワル!」
肩口からぱっと顔を上げて、
真由子は精いっぱいの怖い顔でとらを睨むが……それも長くは続かない。
見つめる穏やかな眼差しに、すぐに胸がいっぱいになってしまう。
敵わないなぁ、と思いながら真由子は照れたように笑って口を開いた。
「とらちゃん、大好き! とらちゃんと、だから…好きなの」
一点の曇りもない真っ直ぐな気持ちに、
とらが満足げな笑みを浮かべると、上気した頬に息が触れるほど顔を近付ける。
『なら……もう一度』
何事かと弾かれたように顔を上げ、真由子は目の前の金色を見上げる。
「とらちゃん……?」
『何だ?』
普段よりも妙に真剣な眼差しにとくん、と鼓動が跳ねる。
「どうし、た……の?」
怪訝そうな顔に影が落ちると――温かで柔らかな感触が唇を撫でた。
『……喰っても、いいか?』
低く掠れた声が小さく囁く。
「……食べてから言うのは、反則だよ」
驚きで見開かれた瞳が嬉しそうに細くなる。
『……もう一度、いいか?』
「そ、んなの…いちいち聞かなくて、も……」
近付く顔に目を閉じれば、ゆっくりと落ちてくる優しい口付け。
目を開ければ視界一面が金色に染まる。
虹彩のない不思議な色合いを湛えた目に、逆さまに映り込む自身の真っ赤な顔。
「えっと、その……」
真っ直ぐな視線に射抜かれた真由子は逃げ場を失い、
取り繕うように言葉を紡ぐ唇をとらが塞いでいく。
『もう少し……いいか?』
確かめるように、慈しむように。
幾度も幾度も唇が重なり、離れてはまたすぐに触れ合う。
触れるたびに伝わる温かさ。緩やかに解けていく心と身体。
息が弾んで、心臓がうるさいくらいドキドキする。
「とら、ちゃん……」
口付けが落ちる前に小さくその名を呼べば、悪戯な目が嬉しげに細められる。
『……嫌か?』
「え?」
『わしと……』
羽が触れるような軽さで、また唇が重なる。
『こういうコトをするのは……嫌か?』
返事に困って目を伏せると、伸ばされた腕にぎゅっと引き寄せられ、
懐深く抱き込まれてしまう。
『マユコ……?』
「……嫌じゃ、ないよ。ないけど、でも……」
こんな風に近くでとらの体温を感じるのも、
そっと唇を触れ合わせるのも、胸が痛くなるくらい嬉しくて幸せなのだけれど、
何もかもが初めてだから――どうしていいのか分からないのだ。
『でも……何だ?』
とらから与えられるものに、与えられるもの以上で応えたいと思うけれど、
いつもいつも、恥ずかしさが邪魔をする。
抱かれる腕の中で身じろいで、真由子は腕を伸ばすととらの首筋を抱き寄せる。
「嬉しいけど、恥ずかしいんだもん……。どうしていいのか、分からないの」
肩口に顔を伏せたまま、真由子は小さく呟いた。
『つまり……嫌ではないんだな?』
こくん、とひとつ頷いて、
真由子は豊かな金糸に埋もれた長い耳に唇を寄せると、消え入りそうな声で囁く。
「とらちゃんのキスは……甘くて優しいから、好き」
くくっ、と嬉しそうに喉を鳴らして、とらがからかうような声音で問う。
『好きなのは……口付けだけ、か?』
「もう! とらちゃんのイジワル!」
肩口からぱっと顔を上げて、
真由子は精いっぱいの怖い顔でとらを睨むが……それも長くは続かない。
見つめる穏やかな眼差しに、すぐに胸がいっぱいになってしまう。
敵わないなぁ、と思いながら真由子は照れたように笑って口を開いた。
「とらちゃん、大好き! とらちゃんと、だから…好きなの」
一点の曇りもない真っ直ぐな気持ちに、
とらが満足げな笑みを浮かべると、上気した頬に息が触れるほど顔を近付ける。
『なら……もう一度』